サブマリーナやディープシーなどの潜水に特化した時計のことをダイバーズと呼ぶ。ここでは、ダイバーズとはなにか、そしてその成り立ちを紹介する。
ダイバーズの定義
ダイバーズは時計で唯一品質規格が決まっている
ダイバーズとは、ダイビングをする人のために開発された潜水時計のことを指す。ISO(国際基準化機構)やJIS(日本産業企画)が定めた明確な規格がダイバーズには存在し、その内容に準拠していなければダイバーズとは呼べないとされている。
具体的には防水性能の品質規格
高級腕時計の場合は手作業で組み立てているということもあり、個々の品質には多少の差もある。そのため、ダイバーズモデルには全ての事項に事細かな基準があるわけではなく、クロノメーター認定などの公的認証も必須ではない。ただし、一部の機能と、防水機能に関しては基準があり、防水機能はJISなどが定めた品質規格に沿っていることが必要となる。
というのも、ダイバーズは潜水計器であり、正しく機能しないと、使用しているダイバーの命を危険にさらしてしまうためだ。
潜水を安全に行うためには、完璧な堅牢さが求められる。さらに、防水性能は明確に数値化されていることが必要。そしてその数値が基準を上回っていない限り、正式なダイバーズとして認められない。
具体的には、ダイバーズとして認められるには、「水深100m以上の潜水に耐え得ることが可能であること」と「時間を管理するためのシステムをもつこと」が絶対条件となっている。
ドレス系のモデルは繊細で細やかな作りのイメージがあるが、実はそれ以上にダイバーズは、きわめて精巧につくられた腕時計であり、「手堅さの象徴」でもある。
ダイバーズモデルは大きく分けて2種類が存在している
ダイバーズといっても、2つの種類に分類される。一つは、1種潜水時計(スキューバダイビングで使用する潜水時計)。もう一つは、2種潜水時計(飽和潜水で使用する潜水時計)の2つである。
スキューバダイビングとは、自給気式水中呼吸装置を使用する浅海潜水のこと。つまり、浅い海でダイビングを行う際に使う時計である。一方、飽和潜水とは、深海での作業時に潜水病にならぬよう、ヘリウム混合ガスを使用した飽和状態で行う深海潜水のことである。
この飽和潜水に対応した2種潜水時計は、より特別な機能が用いられており、ヘリウムガスがケース内に溜まって時計に支障をきたすことを回避するエスケープバルブを装えているのが特徴。
なお、素潜りに使用する時計はダイバーズとして認められていない。
ダイバーズの歴史
ダイバーズの誕生の背景と進化には、様々な要因が関係しているが、後に名作と言われ、現在でも人気シリーズとして続くロレックスのサブマリーナ、ブランパンのフィフティファゾムス、オメガのシーマスターなど、定番ダイバーズの多くが1950年代にリリースされ、数十年立った今でも愛される定番モデルとなった。そして、ダイバーズの誕生と進化の発端となったのは、スキューバの発明と普及であった。
スキューバダイビングが始まったことで専用の時計が必要となった
酸素ボンベを背おい、酸素を吸入しながら潜水を行うことを、スキューバダイビングと呼ぶ。
このスキューバダイビングは第2次世界大戦中に始まったもの。大戦中、あるフランス海軍将校が、高圧空気タンクと圧力調整弁を組み合わせた潜水具を発明した。この発明により、それまでの呼吸を我慢して行う潜水から、長時間、水中で酸素を補給しながら泳ぐことが可能となった。
ただ、スキューバダイビングを行う際に使用する時計は、従米の防水時計の性能では浸水や破損など起こるため対応できなくなってきた。そこで、より高い性能を備えた時計の関発が求められ、1950年代には、その要求に応えるダイバー専用の時計である、「ダイバーズ」が登場する。
始まりはロレックス
ダイバーズの先陣を切ったのはロレックスだった。1953年登場のサブマリーナーは、1920年代に開発したねじ込み式ケースを採用した「オイスター」を進化させ、初の100m防水を実現させた。サブマリーナーは、リリース当時から高い防水性能だけでなく、潜水中の経過時間を測定できる回転ベゼルや、視認性の高い黒文字盤を備えていた。そのデザインは非常に秀逸で、黒文字盤、回転ベゼルなど、現在のダイバーズの多くがそのデザインを用いており、ダイバーズの基礎となるモデルとなっている。
同年にブランバンもダイバーズを発表
サブマリーナーと並び、もうひとつの元祖とされているのが、同じ1953年に発表されたブランバンの「フィフティファゾムス」。
酸素ボンベの酸素残量を測る60分計メモリが付いた回転ベゼルと、蛍光塗料を施して高い視認性を発光する黒の文字盤を祖み合わせたこのモデルは、フランス海軍や、アメリカ、ドイツ、スペインなど様々な国の部隊に採用された。
続々と他のブランドからもリリースされる
その後もダイバーズは次々と登場する。1957年にオメガが「シーマスター」、ブライトリングが「スーパーオーシャン」を発表。どちらも防水性は200mを確保。ダイバーズは、この頃からより深海に適したハイスペック仕様へと進化した。
さらに1959年にはジャガー・ルクルトが「メモボックス・ディープシー・アラーム」を発表する。これは世界初のアラーム機構を搭載したモデルだった。
ダイバーズに求められる高い品質
現代のダイバーズには、通常の腕時計よりも高い防水性はもちろん、視認性、対磁性、対錆性、対塩性といった、さまざまな条件を満たしていることが必要とされている。
というのも、ダイバーズは、酸素残量を表示するという、ダイバーの命に直結する重要な役割を担っているからともいえる。装飾品ではなく、究極の実用アイテムでもあるダイバーズは他の時計と一線を画す存在といえるのはそのためである。
最低でも200mを超える高度な防水性能
JISでは、潜水時計についての細かい要求事項を設定している。最も重要な項目である防水性は「水深100m以上」としている。
とりわけ、高級ダイバーズに求められるスペックは、空気潜水用200m防水(1種潜水時計)、飽和潜水用300m防水(2種潜水時計)と、最低でも200mを超える非常に高い防水性能が求められる。
防水性能を高める機能:ねじ込み式リューズ
ケースにねじ込むことで高い防水性を実現するリューズ、いわゆる「ねじ込み式リューズ」は、1926年にロレックスがオイスターケースで初めて採用した。近年、ねじ込み式リューズは多くのモデルに採用されているが、元々はダイバーズで用いられたのが最初だった。
なお、リューズを開放して時刻の調整を行ったあとは、しっかりとねじ込んでおくこと。そうでなければ、防水性が損なわれるので注意したい。
潜水時間表示針を備えていなければならない
潜水時には、時間を管理するための方法、特に酸素残量時間が把握できることは、非常に重要な要素となる。そのため、ダイバーズには潜水時間表示計が備えられており、回転ベゼル又はデジタル表示装備のような潜水時間表示針を備えていることが必須と規定されている。
ロレックスのようなデジタル表示がない時計の場合、潜水時間表示針として、60分間の計測時間を1分ごとに表示する回転式ベゼルを用いられている。なお、この目盛りは、5分単位の位置が強調されている。
ダイバーズのベゼルは潜水時に使用する前提なので、不慮の回転および誤操作を防止するため、反時計回りにしか回転しない逆回転防止機能を装備することが必須となっている。
ダイバーズモデルの機能:逆回転防止ベゼル
ダイバーズの装備の中には、一般の時計にないものも多い。その代表が「逆回転防止ベゼル」。回転ベゼルはGMTモデルなどでも使われる機能だが、ダイバーズにはあえて反時計回りにのみ操作させる機能が付属している。
これは海中で回転ベゼルを岩や生き物などに接触した際でも、逆回転方向には回らないようになっており、ダイバーの安全な潜水を支えるために、経過時間を限界より短く表示させない方法として導入されたものである。
高い視認性が求められる
ダイバーズにとって逆回転防止ベゼルと並び、絶対に欠かせないのが、高い視認性である。潜水時間表示はもちろん、時刻表示は分表示と時表示が明確に識別可能であること、秒針の動きや秒位置の点滅などで時計が作動しているのを示すことなどの項目が規定されている。
また、明るい場所では潜水時間表示計が最低照度(50ルクスの)で明確に確認でき、暗い場所ではアナログの場合は夜間塗料、デジタルの場合はライトなどによって、25cm離れた距離から時刻や時計の作動状態が確認できなければならない。
そのため、視認性を確保できるよう、ダイバーズは針やインデックスが大きく、夜光塗料が必ず施され、シンプルなデザインが基本となっている。
ダイバーズモデルの機能:夜光塗料
夜間塗料は、一般の時計でも取り入れられていることも多いが、とくにダイバーズには必須である。夜光塗料の一種である「スーパールミノバ」は、1990年代に日本の企業が制作した夜光塗料。蓄光が少しであっても長く光り続けることができるだけでなく、発光時間や彩度が抜群に高い。そのため、視界の悪い海中では非常に重要な存在にあり、夜間塗料の代表として扱われている。
深海潜水に耐えることができる特殊な機能
海中で長時間の作業を行う場合は、呼吸のための装備には、ヘリウムなどの不活性ガス及び酸素からなる混合ガスを使用する。人体を高圧混合ガスが飽和している状態にし、減圧病(潜水病)の危険を減少させるのである。腕に着用する腕時計も高圧混合ガスの影響を受けるため、それに耐える機能が必要となってくる。
ダイバーズモデルの機能:ヘリウムエスケープバルブ
ダイバーズ専用の機能の一つが、ケースサイドに設計される「ヘリウムエスケープバルブ」。深海潜水時には、ダイバーの身体にヘリウムと酸素の混合ガスで圧力をかけ、大深度の水圧に耐えられる飽和状態にして行う。このとき、ヘリウムが時計内に溜まると風防が割れたり、故障の原因となったりするため、プロ用のダイバーズにはヘリウム排出バルブが搭載される。
各種耐性も必須
ダイバーズは時計の各耐性についても詳細に定めている。
耐磁性能
耐磁性能についてはJIS規格の1種耐磁性(4800A/m)が求められるが、これは磁気に5cmまで近づけてもほとんどの性能が維持できるレベル。現代では、スマートフォンやPCなど、磁気を含んでいる機器も多いため、ダイバーでなくても対磁機能がついている時計はありがたい。
曇り耐性
深海へ潜る際は、水中で急激な温度変化が生じる場合も想定しなければならない。気温20度での空気中に60分間、気温60度の空気中に60分間、水温2度での水中に時計を浸けて取り出しても、時計の内側が曇らないことが求められる。
耐塩水性
海中での作業を前提として想定されているため、耐塩水性も必要となってくる。海水と同じ温度の塩水に48時間浸けてもケース、ストラップ、ベゼルの可動部分に変化が生じないことが求められる。
他にも様々な耐性が求められる
水中で長時間強い圧力を加えても正常に機能する水中加圧防水性、ストラップを締めた状態で200ニュートン(約200kg)の力を加えても部品が外れない耐久性など、過酷な条件でも問題なく機能することが数多く要求される。
水中加圧防水性や耐久性については、金属を用いているケースだけでなく、風防の素材もハイスペックなものが求められるが、その多くがサファイヤガラスを用いている。
ダイバーズモデルの機能:サファイヤガラス
硬質でキズがつきにくい高品質な風防素材の「サファイヤガラス」。ダイヤに次いで硬いとされ、1980年代以降のモデルでサファイアクリスタルは採用されている。
通常モデルにもサファイヤガラスを用いている事が多いが、厚いほど防水性が高まるため、ダイバーズは通常のモデルよりも厚めに仕立てられている。また、ハイスペックダイバーズとなれば、厚さは3~5mmと非常に厚くなる。
防水性能
防水スペックによって使えるシーンが異なる
腕時計の「水」への耐性を示すのに防水性能がある。性能を表す記号として、m(メートル)、FT(フィート)、またはBAR(気圧)で表されている。必ず知っておきたい点としては、メートルとフィートの表記は、一部を除いて、実際にその数値まで潜れるという意味ではない。
大きな水圧がかかる潜水時はサブマリーナのような特殊な防水機能を持つモデルでない限り、腕時計を外した方が無難。記載されている数字を過信しすぎないなどの注意が必要。
記載されているスペックによる実際の防水性能
非防水
アンティークモデルや、複雑機構を積む一部の高級時計には防水表記がないモデルも存在する。これらは防水仕様のケース構造になっておらず、雨はもちろん汗や湿気でも故障する場合がある。取り扱いの際には十分に注意したい。
50m(5気圧)
一般的な腕時計が採用している数値が50m。腕時計に直接水がかからない手洗いや洗顔、小雨程度ならケース内部への水の侵入を防げる。手洗いや雨などで水滴が付着した場合は早急に拭き取っておくことで、時計を長持ちさせることができる。当然のことながら装着したまま海に入ることはやめておきたい。
100m(10気圧)
50m防水と同じく多くの腕時計で採用されている数値。日常の手洗いや雨天時などの防水性は、50mよりも高い。しかし水圧がかかるとケースに浸水する可能性があるため、念のために水中や水辺での着用はお薦めできない。
200m(20気圧)
この防水性能以上がダイバーズのカテゴリに入ることができる範囲。実際、ISO(国際標準化機構)やJIS(日本工業規格)に準拠している200m防水仕様なら実際に水深200mまで潜ることができる。
ロレックスのダイバーズモデル
SUBMARINER DATE サブマリーナーデイト
高い機能性をもつスポーツロレックスの定番機
1953年にロレックスが誇る防水技術の結晶として誕生したダイバーズの名作サブマリーナー。デザインは誕生から大きく変わることなく続いており、ファーストモデルで基本形が完成しているとも言え、ダイバーズの定番モデルでもある。基本デザインは変化しないが、性能については常に進化を続けている。
SEA-DWELLER シードウェラー
より深く潜ることができるプロフェッショナル向けダイバーズモデル
サブマリーナーの上位機種に位置付けられるシードウェラー。フランスの海洋調査会社コメックスの依頼により、同社のプロダイバー用にサブマリーナーをベースに開発された特殊時計が原点とされる。
深海で作業ができるよう、ヘリウムと酸素の混合ガスを使う飽和潜水方式にも対応するために、ヘリウムガスエスケープバルブが装備されている点が特徴となっている。他にも、海に潜る際のウェアの上から装着できるよう、サイズの微調整が可能なブレスレットなどが特徴。